FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

幸せになるための金の使い方 限界効用逓減かピークエンド法則か

人生の大きな目的の一つは「幸せになること」でしょう。多くの人がそうだと思います。では幸せになるにはどうしたらいいか? いくつかの研究から幸せになるための面白いメソッドが明らかになっています。 

どっちの人生が素敵ですか?

 最初に質問です。あなたなら、どっちの人生のほうが幸せだと思いますか?

  1. 豊かな家にうまれ不自由なく過ごし成績優秀で友人にも恵まれ、大企業に入って順風満帆な人生を過ごしたが、老年になって事業に失敗し、無一文になって10年後、たった一人で亡くなる。
  2. 貧しい家に生まれ友人にも恵まれず辛い人生を長く過ごしたが、老年になって大成功し大金持ちになっただけでなく、周囲の人たちにも恵まれ、たいへん素晴らしい毎日を過ごし10年後、大往生

f:id:kuzyo:20190205155425j:plain

もし幸せというのが、人生の満足度の合計だとしたら(つまり面積)、長く幸福な時間を過ごした(1)のほうが幸せでしょう。一方で、満足度の最大値の大きさと、最後が幸せだったかどうかが重要ならば(2)のほうが幸せです。

経験する自己と物語る自己

最近の心理学の研究では、自己には2つの種類があると言われています。『ホモ・デウス』では、次のように書いています。

私たちの中には、経験する自己と物語る自己という、少なくとも二つの異なる自己が存在することを、この実験は暴き出すからだ。

経験する自己とは、そのときどきの意識だ。

記憶を検索し、物語を語り、大きな決定を下すのはみな、私たちの中の完全に違う存在、すなわち物語る自己の専売特許だ。物語る自己は、ガザニガの左脳の解釈者と似ている。たえず過去についてのほら話作りや、将来の計画立案にせっせと励んでいる。

ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来

経験する自己、物語る自己という、この2つの自己は、幸福に関する自己評価も異なることが分かっています。カーネマンの研究でいう、「幸福感」が経験する自己に相当し、「人生の満足度」が物語る自己に相当するとすれば、経験する自己が感じる幸せは年収が増加しても一定量で頭打ちになり、物語る自己にとっての幸せは収入に応じて増加しています。

kuzyo.hatenablog.com

 

そして、物語る自己には大切な特徴があります。

ピークエンド法則とは

 それは「ピークエンド法則」です。ここでは幸福感ではなく、苦痛に関しての実験結果ですが、物語る自己は幸福や苦痛の総量ではなく、ピークの時の幸福や苦痛と、最後の時の幸福や苦痛を重視するというのです。

(物語る自己は)すべては語らず、たいていは印象深い瞬間や最終結果だけを使って物語を紡ぐ。経験全体の価値は、ピークと結末を平均して決める。

ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来

物語る自己の幸福についていえば、「最高に幸福だった時の最高度合い」「最後が幸福かどうか」が最重視されるということです。ピークエンド法則に則っていえば、最高に幸福な一瞬を過ごし、最後も幸福だった(2)の例は、物語る自己にとって「最高に幸せな人生だった」といえるでしょう。

限界効用逓減の法則とは

一方で、幸福のようなものは限界効用逓減の法則が働きます。これは経済学で金銭について言われる法則で、「財の消費量が増えるにつれて、財の追加消費分(限界消費分)から得られる効用は次第に小さくなる」とされています。

 

要は、1000円のランチは美味しいけど、2000円にしても倍の美味しさにはならない。1万円のランチは10倍の美味しさに感じない、ということです。幸福についても収入が2倍になって感じる嬉しさは、4倍になったときと同等ではないということです。

 

先の例でいえば、(2)の人生はラストで大きく満足度が上がっていますが、このときにかかったお金は満足感の上昇よりも大きなものになるでしょう。大きく満足度を高めるには、まさに桁違いの出費も必要ということです。

ピークエンド法則を踏まえたお金の使い方

これらを踏まえて、では幸せになるにはどのようにお金を使ったらいいのでしょうか? まずピークエンド法則を元にすると、次のことが見えてきます。

 

ここぞというときに、一気に多額のお金を費やして満足度をマックスまで上げましょう。このとき感じた幸福感は、人生の最後まで「物語る自己」としての幸福感の元になります。ケチケチせず、ピークの幸福感を目指しましょう。

 

そして幸福感を上げるのは人生の最後に取っておくべきです。人生のラストがみすぼらしいと、「物語る自己」は人生全体がダメだったという思いに囚われます。終わりよければ全て良し、です。

効用逓減の法則を踏まえたお金の使い方

一方で、効用逓減の法則を元にした幸福のためのお金の使い方は次のようになります。

 

年間100万円の食費があったら、50万円のディナーを食べて、残り50万円で364日を過ごしてはいけません。1日2700円の食費で毎日食べていくことが合計の満足度を高めます。50万円のディナーは、2700円の食費の185倍の満足度はもたらさないからです。

 

高額な出費は控え、少しずつ毎日のレベルを高めることが毎日の幸せを高めます。お金はちょこちょこ使いましょう。

 

矛盾した法則から導かれるものは

正直、2つの法則が導く幸せになるお金の使い方は矛盾します。それはそうです。「経験する自己」と「物語る自己」で評価基準が違うのですから。でも、カーネマン研究が一つの参考になりそうです。毎日の楽しさ=経験する自己は、年収7万5000ドルで幸せ感が頭打ちになるという点です。

 

なぜ年収7万5000ドルなのかはわかりませんが、日本円にすると700万〜800万円くらいでしょうか。ここまでは、毎日の消費レベルを上げていくことが効用逓減法則から効果があると考えます。逆に、ここから上の収入を毎日の生活につぎ込んでも、見合った幸福感は得られません。

 

その上で、ここから上の収入は貯蓄や投資に回します。現在の幸福ではなく、老後という「エンド」に備えてです。そして、たまに豪遊します。人生の幸福感の「ピーク」を作っておくためです。ピークのためには、エンドに影響が出ない範囲で思いっきりお金を使います。世界一周旅行でも夢だったスーパーカーを買うでも銀座で豪遊でもいいでしょう。宇宙旅行に行くなんてもいいですね。

 

自分でもエッと驚くほどの額を寄付するなんてのもいいでしょう。自分のために使うよりも、他人のために使うほうが幸福感が高まるという調査結果もたくさん出ているからです。

幸福なカネの使いかた

こうして年収750万から上の部分は、「エンド」に向けて使用を遅らせて、「ピーク」を作るために一気に豪遊する。これがそれぞれの法則から導かれる幸福なカネの使い方です。

 

もちろん、年収が700万円に満たない場合は、得られるお金の範囲内で少しずつ生活を良くしていくというロジックになります。逆に、大金持ちがときに変なことに大金を使う理由も、ピークエンド法則を覚えておくとなるほどと思えるようになります。

 

【『ホモ・デウス』は、『サピエンス全史』の著者、ユヴァル・ノア・ハラリが書いた名作です。「データ教」と呼ばれる現代の神話の成り立ちと、それがもたらすものを描き出します】 

ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来

ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来