「資産運用EXPO」に行ってきたので、いくつかのセミナーやブースで話を聞いてみました。するとまぁ、確かに「怪しい」「騙される」と思うような話が満載でした。
こんな怪しい話
たとえば全力でフィリピン投資をオススメされたこと。フィリピンの国債利回りが6%を超えていることを全力で勧めていました。とある大学教授の「科学的な」投資法講演では、大学での専門とは全く関係なくPBRで銘柄をフィルタリングしましょうとか、株価が天井なので、これからは……という話が盛りだくさんでした。副業講演では、副業には株式やFXのテクニカル分析によるトレードがお勧めで、月間で10%は利益を出せますと自信を見せていました。
怪しい話の特徴1:日本の情勢、世界情勢から不安を煽る
たいてい怪しい話は日本の情勢、世界情勢から入り、年金不安ですよね、給料だけじゃ足りないですよね、と不安を煽るところから入ります。さらに、この市場はいかに伸びているかを(都合のいい)データをもとに説明しはじめます。
初心者向けの投資セミナーなどでは、多少こうした「なぜ投資が必要なのか」という話は導入として必要でしょう。ところが、予定時間の3割近くをこれに割かれると、
- よっぽど不安を煽って、理性をなくさせたいんだな
- 投資手法自体の詳細は語りたくないんだな
と感じます。実際、こうしたセミナーで投資手法自体が話されることはなく、「知りたければお金を払ってください」というのがほぼすべてです。まぁ詳細を話してしまってはお金を払う人もいなくなるのですが、もう少しロジックなりについて話さないと、ある程度ものを考えられる人は入会しないと思うのですが。
怪しい話の特徴2:既存権威をすり替えて利用する
既存の権威をすり替えて利用するというのも定番です。たとえば、フィリピンの国債は確かに利率6%超ですが、同様にインフレも6%なのです。そのため、通貨が恐ろしい勢いで安くなっています。フィリピン ペソ建てで利息をもらっても、インフレに伴う通貨安で差し引きゼロ。さらに投資元本もインフレで減価するので、大損するわけです。
※ペソ/円の1992年からの為替推移。この20年ほどはボックス圏で上下していますが、インフレは確実に通貨価値を毀損します
それでも、フィリピン国債はS&P格付けが「BBB」まで上がっているとか、ブラックロックやバンガードが買っているという、権威を使った説明をするわけです。S&P格付けは基本的に債券のデフォルト可能性に対して付けるもので、インフレや通貨安による損失を考慮したものではないですね。ブラックロックなどの投資信託運営会社も、市場の拡大に応じて新興国債券インデックスファンドではフィリピン国債を買い付けるでしょう。でもだからといって、ブラックロックがフィリピン国債を評価しているわけではないはずです。
怪しい話の特徴3:根本的なリスクについては言わない
副業としてFXを勧めるセミナーでは、テクニックを学べば誰でもうまくなると言い切ります。これは間違いではないのかもしれませんが、そこでは、FXなどのトレードでは、誰かが儲けた分、誰かが損するという根源的な話に触れることはありません。
もしもうまく儲けられなかったとしても、「まだテクニックの習得が不十分」と言い続けられるわけです。
いずれの場合も、「投資なのでもちろん損することもあります」とはいうものの、どのくらいの人が損をして、どのくらいの人が得をするというそうしたリスクは語りたがらないものです。さらに、投資の多くは中央値マイナスのロングテールという、一部の人が大勝ちし、ほとんどの人は負けるという構造にあることも、絶対に伝えません。
怪しい話の特徴4:根源的なエビデンスに言及しない
大学教授の「科学的」投資法ということで、どんな科学的な話が聞けるのかと思ったら、極めて伝統的な財務諸表による銘柄フィルタリングと、チャートを見ての売買タイミングという話でがっかりしました。
たしかに勘と気分で売買するよりは、ルールを決めて売買するほうが成功確率は高まると思います。でも、それをもって科学的というのはないだろう、という感じです。
高配当利回りを継続する銘柄は20%以上株価が落ちることはないはずですというなら、せめて過去100年間くらいのデータをもとに、過去はこのくらいの確率でしたというのが科学的な投資法でしょう。また高配当銘柄の株価が安定するロジックについても説明がなく、ロジックベースの投資法なのか、エビデンスベースの投資法なのかもわかりません。
怪しい話の特徴5:ごく一部の成功例を取り上げる
「うちの◯◯さんの成績は……」というのも、よく出てくる説明です。これを一概に嘘とはいいませんが、ある程度の数がいればごく一部は大成功するのが確率というものです。1000人で勝ち抜きじゃんけん大会をしたら、誰かは6連勝して優勝するでしょうが、その人はじゃんけん必勝法を持っているのか? という話です。さらに、成功した人は続けますが失敗した人は退場してしまうので、生存者バイアスもあります。
こんな成功例があります、とうのは、「自分もそうなれるかも」というイメージをふくらませるためには役に立ちますが、やれば成功しそうだと思わせる効果を狙っているのが明白ですね。
でもだいたいの人は時間も手間も勉強も不要で、資産が10倍になる話が好き
でもこうした古典的な手法がいまでも普通にあるのは、これが怪しい投資話に引き込むために効果的なのでしょう。投資家を引き寄せるという意味のエビデンスは、確実にあるのだと思います。
ただ、こういう例を見て、「うまい話には裏がある」で片付けてしまうのはもったいないと思います。世の中には、けっこう高い確率で年率40%なんて投資も実際にあって、しかも期待値はほぼゼロ(つまりぼったくられるわけではない)だたりするからです。うまい話というハイリターンの裏には、必ずハイリスクがあります。リターンとリスクが見合っているか、どこにリスクがあるのかを理解した上で、自分が何にベッドしているのかを分かって投資するのは、事業と同じく必要なことでしょう。
また投資話を持ってくる相手の利益の源泉を考えることも重要です。往々にして、彼らの利益は自分たちの損失だからです。さらに、同様の投資先を複数の人が売ろうとしているかもチェックです。複数人が売ろうとしていれば、適正値まで価格が下がっていくはずだからです。株式投資でいえば、売買手数料を証券会社ごとに比較することで、最も少ないコストで取引できるだけでなく、売買手数料の低下圧力にもつながっていきます。
いやはや、投資話というのは怖いものですね。