FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

コスパ思想につきまとう計測可能性問題

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昨今「コスパ」が流行です。何かモノを買ったりサービスを受ければ、「コスパが良かった」「コスパが悪かった」と口々にいいます。なぜ、みんなこんなにコスパを気にするようになったのでしょうか。

 

言うまでもなくコスパとはコストパフォーマンス、つまりパフォーマンスあたりのコストのことを指します。日本語にすると費用対効果。つまりコスパ評価には、暗黙のうちにコストとパフォーマンス(効果)が測れることを前提としています。

「効果測定」が日常化したインターネット時代

その昔から事業のパフォーマンスを上げるためには「測定」が重要だと言われてきました。主に工場で、時間あたりの生産量を測定することで生産性を測るという趣旨です。これをホワイトカラーにも敷衍したのがドラッカーです。

 

ドラッカーの言葉に「測定できないものは管理できない」というのがあります。

kuzyo.hatenablog.com

この流れは、PDCAや業務評価における測定可能目標を普及させました。計画(P)して実行(D)し、評価(C)したのち再実行(A)する。PDCAを短期間で回すことで業務改善の重要事項だというわけです。業務評価でも、フェアで客観的な評価のためには計測可能(メジャラブル)な目標を作ることが推奨されます。

 

そしてインターネットの発展は、これまで測定が難しかったものを測定可能にしてきました。広告や物販がその最たるものでしょう。ユーザーひとりひとりの閲覧状況やクリック状況、さらにはその後の購買行動まで測定できるようにしたのがインターネットです。

 

IT化は企業の損益管理も容易にしました。これまで年度や月次が精一杯だった損益の確認も、取引がデジタル化されることで日時やリアルタイムに黒字なのか赤字なのかが把握できるようになりました。さらに、部署単位、人単位、商品単位で確認できるようになってきています。

 

こうした背景が、「効果測定」を当たり前のものに感じさせるようになってきたのでしょう。

短期価値しか測定できない問題

ところが、この効果測定には未だクリアできていない大きな課題があります。目先の短期の効果しか測れない点です。

 

ECでいえば、そのユーザーがある商品を購入したかどうかは計測できます。しかし、そのユーザーが不本意に購入したのか、望んで購入したのかは分かりません。広告でも、閲覧回数やクリック回数、またクリック後の短期的な行動は追うことができます。しかし、それでブランド価値が向上したのかは、従来どおりのアンケートなどでしか測ることができないのです。買わせるのは簡単だけど、ファンになってもらうのは難しいということです。

 

業務評価においても、長期的に価値を生み出す業務や、ブランディング活動や保守業務など効果測定が難しい業務については「できるだけ測定可能な目標にすること」が推奨されます。これは本末転倒な話で、業務の価値を測定するのではなく、測定可能なものを業務にしましょうと言っているということです。

 

大学などのアカデミックな領域でも、測定可能なものを業績として評価しようという動きが加速しています。実績を正しく評価するのではなく、測定可能なものを実績としようということです。ここには測定が難しい業務を評価する素地はなく、短期的に測定可能な業務にフォーカスさせるバイアスが働きます。

 

つまり、測るのは短期的なものでないと難しい。これが現状の効果測定の課題です。

コスパの追求は近視眼的に

効果測定全能主義は決して悪いことでないと思います。ただし、現在の効果測定が可能なのは一部の、かつ短期的なものに限られるということが忘れ去られています。

 

測定可能なものだけでコスパを測ると、当然ながら「計測できないものはコスパが悪い」と考えられがちになります。長期的な価値、感情的な価値は、場合によっては「コスパが悪い」と言われかねないのです。しかも、議論になった場合は、一方が計測した数字があるために、計測できない価値はたいへん分が悪いことになります。

 

今後、効果測定の技術が向上するにつれて長期的な価値についても測定可能になっていくでしょう。顧客ロイヤルティを評価する指標である「NPS」などは、現在ではまだアンケート調査によっていますが、これがデジタルに測れるようになるかもしれません。

webtan.impress.co.jp

 

それでも、現時点では、「コスパ、コスパ」という表現の普及が、計測可能なものを重視する、短期的な指標を重視する姿勢の広まりを如実に表しているように感じてなりません。

計測指標としてのおカネ

もう一つ、指標の考え方として「おカネ」を重視する人の増加も気になります。年始のNHK番組で、若者の対談の中でこんなことが言われていました。

「売れなきゃしょうがないからさ」というセリフはカッコ悪かった。
ところが、平成だとそれが普通に。これがコスパの正体

2019元日スペシャル - 新世代が解く!ニッポンのジレンマ - NHK

ちょっと前まで、「売れなくてもいいものはいい」という思想は確実にあったと思います。売れなくても価値がある。だからそれに取り組むという考え方です。ところが、今は「いいものでも売れなくちゃしょうがない」と考える人が増えています。

 

価値をどうやって測るかはいろいろありますが、市場価格というおカネで計測するのが当たり前になってきたということなのでしょう。

 

セミリタイアなんて、「コスパ」でいったら最悪ですね。ただ本当の意味で長期的な価値を考えた場合、 得られるパフォーマンスは実際はすごく高いものだと考えています。