FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

削るなら固定費、使うなら変動費

節約系のコンテンツで定番となっているのが「家計の見直しは固定費の削減から」という一言。でもこれってなぜなのでしょうか? 

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 まずは言葉の定義から。「固定費」というのは都度意思決定しなくても継続的にかかっていくコストのこととします。家計なら「家賃」や「電気代」「携帯電話代」などがそうですね。事業なら「人件費」が大きいでしょうか。

 

「変動費」は、事業なら売上に連動してかかるコスト、例えば製品の加工コストなどです。でも家計まで広げて言うと、使う際に都度意思決定して使うコストとするのがよいでしょう。では、なぜ節約するなら固定費なのでしょう?

 

絶対的な金額の大きさ

まず固定費は絶対的な金額が大きいというのがあります。人生3大コストと呼ばれるものに「家」「保険」「車」があります。これはそれぞれ固定費として毎月コストが発生する上に、金額がとても大きいのが特徴です。家や車は、購入時こそ現金一括で買ったとしても、管理費やら修繕積立金やら固定資産税やら、そして車検やらタイヤ代やらと維持コストも大きくなります。

 

もう一つのポイントは、1回で大きな金額だと購入にちゅうちょするものも、分割になると安く感じてしまうという心の特性があるでしょう。例えば、購入時0円でも月々の料金が割高な携帯電話はそのいい例です。実際には、購入時の端末代金を、割高な基本料で分割払いしているようなものなのに、初期コストが安いと購入しやすいと感じてしまうわけです。そのために、本来の価値よりも高いコストの買い物をしてしまいがちです。リボ払いに慣れるとコスト感覚が麻痺するのがいい例だといえます。

 

ここまでは、まぁよく言われることですが、次のようなブログの記事を見つけました。


これは対偶を取ると、変動費として使うほうが幸せ感が高い、ということなります。これは面白いですね。しかも言われてみると、そのとおりだと感じます。人にもよるでしょうけど、毎日の半ば固定費化している缶コーヒーをやめて、半年に一回1万5000円の豪華な食事をするほうが幸せな感じです。新聞の購読をやめて、豪華シートで映画を見るほうが楽しそう。

 

なぜ固定費にお金をかけるより、変動費として使ったほうが幸せなのでしょうか?

 

流動性プレミアム

固定費は、多くの場合スイッチングコストが高まる仕組みが各所に組み込まれています。家なら、気軽に売買して引っ越すわけにいかないですし、賃貸でも退去手続きはたいへんですしお金もかかります。携帯には中途解約のペナルティがかかりますし、保険は一定期間を過ぎないと解約返戻金が元本を割るという罠が仕掛けられています。つまり、本人の決定権が小さくなるわけです。

 

以前、流動性プレミアムのことを書きました。資金が固定され流動性が失われるなら、その分プレミアムが必要だという記事です。固定費も、流動性プレミアム分価値が少ないと考えられます。


保有効果

もう一つは、ダニエル・カーネマンがいう「保有効果」です。人はあるものを持っているときのほうが、持っていないときよりも高く評価する傾向にあります。時価100万円の株を持っていて、売るなら120万円以上になったらと考える人でも、持っていないとしたら100万円で買うかというと買わないわけです。持っているときは適正価格は120万円だと思っているのに持っていないときは100万円以下だと考えています。

 

この保有効果は、別の見方をすると損失回避傾向だともいえます。資産が増える喜びよりも、減る悲しみのほう大きいということです。年収が100万増える喜びより、100万下がる悲しみのほうが人は強く感じます。ですので、今年120万増えて、翌年100万円下がるというような成果報酬型の給与体系より、毎年10万円づつ増える年功序列のほうが、実は満足度は高いかもしれません。

 

さて、この保有効果や損失回避傾向を、固定費/変動費に当てはめて考えてみます。まず固定費で得ているサービスの場合、より高級なものに移行するのはもちろん嬉しいわけですが、レベルを落とすのはたいへんな苦痛を伴います。家のレベルを落とすのも、車を安いものに乗り換えるのも、苦痛を感じるのはこの保有効果や損失回避傾向で説明できます。

 

一方で、変動費として使ったコストの場合、前回よりもワンランク低いホテルに泊まっても、前回より安いレンタカーを借りても、そこまでの苦痛はないはずです。そのために、スポットでものすごい高い使い方をしても、固定費のように精神的に後をひかないので満足度を高められるわけです。

 

探索コスト、そしてコミュニケーションコスト

流動性プレミアム、保有効果と、固定費より変動費のほうがよい理由を考えてきましたが、固定費のほうがよい場合ももちろんあります。それは、探索コストや初期コスト、コミュニケーションコストを抑えられるという点です。

 

家にせよ車にせよ、いったん購入して固定費化すれば、「次は何にしようか?」と調べる必要はありません。手続きの書類をたくさん書く必要もありませんし、対面で注意事項を聞く必要もなく、事務手数料なるお金を払う必要もありません。変動費化する、というのはこのコストを担わなければならないということでもあります。

 

ただし、世の潮流は変動費化に追い風です。インターネットとスマホは、探索コストを劇的に下げ、人の介在をなくすことでコミュニケーションコストも抑えました。さらにブロックチェーンが本格的に稼働すれば、さらに都度のトランザクションコストは減少するでしょう。

 

固定的にモノを所有するのではなく、必要なときにサービスとして変動費で払う。テクノロジーの進展がこれを後押ししているわけです。

 

そんなわけで、節約の観点からだけでなく、幸福の観点からも、固定費はできるだけ抑え、使うなら変動費として使う。これが心理学と技術トレンドを踏まえた正解でしょう。